狂言は和泉流の人間国宝、野村万作さんが「附子(ぶす)」、能は金春流80世宗家の金春安明さんが「舟弁慶」とそれぞれ人気演目を鑑賞する事ができました。
薪能の鑑賞は、「光」をテーマに研究・制作をしていた多摩美の3年生の時に、薪の光を用いた芸能として野外での薪能を鑑賞して以来です。ただ今回は残念なことに、当初予定されていた史跡相模国分寺跡で行われる予定だったものが、天候が悪いため海老名運動公園総合体育館での屋内上演となり、薪がたかれることはありませんでした。
それでも、仕舞、狂言、薪能は素晴らしく、この鑑賞は貴重なものでありました。
このような伝統芸能というと難しい、あるいは退屈といった印象を持たれる方は多いと思いますが、狂言はとても分かりやすくて、本当に面白いです。
今回上演された「附子(ぶす)」は、主人の留守中に、主人から毒が入っているから絶対に近づかないようにと言いつけられた二人の家来の話し。野村万作演じる家来の一人、太朗冠者は、そのツボが気になってしなたなく、次郎冠者をそそのかしながら、そのツボの中身のものを食べてしまう。食べてみるとそれは砂糖で、美味しくて美味しくてやめられなくて、二人で全部食べ尽くしてしまう。やがて主人が帰って来てからの言い訳がまた面白く・・・その太朗冠者のひょうきんな振る舞いに、観客は爆笑でした。
一方、能の方は、狂言に比べると何を話しているかまったく分からない言葉で演じられるものですが、事前にあらすじの解説を聞かされていたので、ストーリーは理解することができ、さらに能という舞台表現のすごさを実感させられるものでありました。
能は、現代の演劇などと違って、言葉は分からないし、舞台セットもありません。
鼓とかけ声だけで、舞台の空気を作っていくのです。
静けさや、嵐で海の波が高鳴っている様子など、さまざまシーンの空気を、これらの音で作り上げていき、私たちはその舞台空間に引き込まれていきます。
まさに「幽玄」という言葉がぴったりな世界でした。
具象物に頼るのではなく、抽象化された表現で目的の世界(メッセージ)を伝える。まさにその作業こそがデザインそのもので、その本質を、日本の伝統芸能の中にも見いだした気がしました。
写真:海老名市ホームページより引用
公演情報:
【日 時】8月20日(土)開場 午後5時 開演 午後6時30分
【会 場】海老名運動公園総合体育館
(雨でない場合は、史跡 相模国分寺跡の予定でした)
【演 目】
仕舞 「田村キリ」高橋忍 「杜若キリ」金春憲和 「鵜之段」本田光洋
能 「舟弁慶」 金春安明(金春流八十世宗家)
狂言 「附子」 野村万作(人間国宝)